友近ダイエット

  『風』〜循環と錯覚が生み出す追い風〜


今回は「風」について取り上げてみたいと思います。

風はなぜ吹くのでしょうか?

それは地球規模の

大気の循環と地球の自転による回転が原因です。

しかも、それは見かけの力(錯覚)がもたらしているものなのです。

この錯覚の力によって貿易風が吹き、

錯覚の力によって偏西風が吹くことで

私たちは大いに風による恩恵や影響を受けています。


今回は地球をとりまく風のお話を通して

良い錯覚は人生の活力になる

ということをお伝えしたいと思っています。


まずは風が起こる原理について詳しくみていきましょう。


? コリオリの力

最初に断っておきますが、今からするお話は難しいです…。

すいませんm(__)m (先に謝っておきます…)

コリオリの力をきちんと説明できる人は理系の人でもかなり少数派だと思います。

それだけ理解しづらい原理ですし、

難しい話はできるだけ避けてお伝えしたいとは思っているので

コリオリの力に触れずに風のおこる原理を説明しようと試みてはみたのですが無理でした…orz

私なりに精一杯やさしくお伝えしたいと思いますのでどうぞお付き合いをお願いします!

まず下の図を見てください。



今、速度の遅い電車Aと速度の速い電車Bがあるとします。

? AさんがBさんに向けて「まっすぐ」ボールを投げます。

そうすると、

? 電車Bの方が速いのでボールはBさんには届かず、Bさんの左にそれてしまいます。


2つの電車の速度が違うのですから、これは当たり前のことなのですが

もしBさんが、自分の電車がAさんの電車より速いことを知らなかったとしたらどうでしょう?

「Aのやつ、ちゃんとまっすぐ投げろよな!随分右に投げやがって!

 さては右に曲がる変化球でも投げたのか?」

と思うのではないのでしょうか?

もちろんAさんからしてみれば、これは濡れ衣ですね。

「ちゃんとまっすぐ投げたよ。Bくんの電車の方が速いからいけないんだよ」

と反論したいことでしょう。

つまり、BさんはAさんが右に曲がるボールを投げたと錯覚してしまうのですね。


ではこれを地球にあてはめて考えてみましょう。

・・・とその前に地球の自転速度について見ておかなくてはなりません。

皆さんご存知のように地球は(ほぼ)球体をしていて1日24時間で1回転(自転)しています。

いま下の図のように北緯50度付近にAさんがいて、赤道付近にBさんがいるとしましょう。




このときAさんもBさんも地球の自転と共に24時間で1周するわけですが

AさんとBさんでは1周の距離が違いますね。

Aさんのいる北緯50度付近は1周約30000kmなのに対して、

Bさんのいる赤道付近は1周約40000kmです。

ということは、Bさんの方がAさんよりも速く移動していることになります。

具体的に計算してみると

Aさんの速度は時速約1250km、Bさんの速度は時速約1667kmです。

(↑この速度もずいぶん大きくて驚きますね…!)

このような状況でAさんのいる所からBさんのいる方向に

「大砲」を撃ったらどうでしょうか?

さきほど見た速度の違う電車で起きたことと同じことが起きそうですね。







? AさんがBさんに向けて「まっすぐ」に大砲を撃ちます。

地球が自転すると

? Bさんの方が移動速度が速いのでBさんの西に大砲の弾は着弾します。


Bさんは思うでしょう。

「Aの大砲の性能が悪くて助かった!随分右に曲がる大砲だな〜」と。

もちろんこれも上の電車の例と同じく、Bさんの錯覚ですね。

実際にはAさんの大砲の性能が悪いわけではありません。

Bさんの方が移動速度が速いために起こる現象です。

しかし今度はBさんの錯覚を笑うことはできないかもしれません。

Bさんに限らず私たちは誰も時速1000kmを超えるスピードで

自分が移動していることは感じないからです。


逆にBさんの方からAさんの方に向けて「まっすぐ」大砲を弾を撃った時は

Aさんの方が移動が速度が遅いのでAさんの東に大砲の弾は着弾するはずですね。

ここでもやはり大砲の弾は右に曲がってしまったように感じることでしょう。


このように大砲の弾が

進行方向に対して右に曲がるように感じる見かけの力(錯覚の力)を

コリオリの力といいます。

まとめますと…

コリオリの力とは

「回転運動の中にいる人が感じる見かけの力(錯覚の力)で

 その向きは常に進行方向右向きである」

ということになります。

(↓分かりやすい動画を見つけましたので、よかったらご覧下さい。)




この先は蛇足ですが…

この見かけの力のことは一般に「慣性力」と呼ばれているものです。

急発進する電車で体が後方に引っ張られるように感じる力や

エレベータが上昇するとき自分の体重が重くなったように感じる力、

乗っている車が急カーブを曲がる時に外に投げ出される様に感じる力(いわゆる遠心力)

などはすべて見かけの力(錯覚の力)で慣性力です。


? 大気の循環

前章では難しいお話にお付き合いいただいてありがとうございました!!

ご理解いただけたでしょうか?

今度は私たちの地球をとりまく大気の大循環についてお話したいと思います。


まず大前提として

温かい気体は上昇し冷えた気体は下降する、ということはご存知でしょうか?

もしご存じなくても、今回は「そんな感じもするな」と流してくださると助かります。

(熱気球で上昇するときに大きなバーナーのようなもので

 気球の中の空気を温めているのを御覧になったこともあるかと思います。

 いずれこのお話は詳しくさせていただきます。)


…ということは赤道付近は気温が高いので大気は上昇していて、

北極や南極付近の気温は低いので大気は下降していることが予想されますね。

さらに、大気は暖められると膨張して軽くなるので、

上昇気流が発生している所の地表の気圧は低気圧になります。

反対に大気は冷やされると収縮して重くなるので

下降気流が発生しているところの地表の気圧は高気圧になります。





水が高いところから低いところに流れるように

大気は高気圧のところから低気圧のところに流れます。

この高気圧から低気圧に向かう大気の流れが風の生み出します。


以上のことを地球規模で考えてみましょう。

とりあえずは日本のある北半球に限ってお話をします。

(南半球は赤道をはさんで対称になります。)

下の図をご覧ください。


ちょっとこの先はややこしくなってしまいますので

太字のところだけ拾いながら軽く読み流していただいても結構です。

(最後に結論をまとめます。)


最初に赤道付近を見ていきます。

赤道付近では大気が暖められているので、

上昇気流が発生して低気圧になります。

上昇した大気は北極方向に移動しながら次第に冷やされて重くなり、

北緯30°付近で下降しはじめます。

下降した大気は低気圧である赤道方向(南向き)に移動して戻ります。

このように赤道と北緯30°付近の間で大気は循環しています。

これを発見者の名前を取ってハドレー循環といいます


次に北極付近についても見てみましょう。

北極付近の大気はとても冷たいので下降気流が発生して高気圧になります。

下降した大気は赤道方向(南向き)に移動しながら次第に暖められて軽くなり

北緯60°付近で上昇しはじめます。

上昇した空気は北極方向に移動して戻ります。

このように北極と北緯60°付近の間でも大気は循環しています。

この循環はひねりのない名前ですが極循環といいます。



最後に私たちの日本がある中緯度付近はどうなっているかも見ておきます。

日本がある北緯30°と北緯60°の間の大気は

ハドレー循環極循環にはさまれて不安的な状況にありますが、

2つの循環に引っ張られるようにしてここでも

二次的に循環が生じています。

この循環はフェレル循環と呼ばれています。

これにより地表付近の大気は北向きに移動しています。


…以上まとめますと

「赤道付近の地表の大気の流れは南向き(ハドレー循環)

「北極付近の地表の大気の流れは南向き
(極循環)

「中尉度付近の地表の大気の流れは北向き
(フェレル循環)

ということです。

とにかくこれだけ理解しておいて下さい。


この地球規模の3つの大きな循環と前章で勉強したコリオリの力が合わさって

我々の地球に吹く風を作っています。


? 地球をとりまく風

それではいよいよ地球をとりまく風について見ていきたいと思います。



ここでもまずは北半球に限定して話を進めます。

これまで?章と?章で勉強してきたことを復習しておきましょう。


コリオリの力
 … 進行方向右向きに働く見かけの力(錯覚の力)

ハドレー循環 … 赤道付近の大気の循環 → 地表では南向き

フェレル循環 … 中緯度付近の大気の循環 → 地表では北向き

極循環 … 北極付近の大気の循環 → 地表では南向き


ということでしたね?

…ということは

例えば、ハドレー循環によって地表を南向きに運ばれる大気が

コリオリの力を受けるとどうなるでしょうか?

そうですね!

コリオリの力はいつも進行方向に対して右向きに働きますから、

南に動く大気は進行方向右向き、すなわち西の方に曲げられて

東から西に吹く風(東風)になります。

これがハドレー循環がある赤道〜中緯度付近に吹く強い貿易風(東風)の正体です。


同じく地表で南向きに大気を運ぶ極循環がある地帯も東風が吹くことになります。

極循環がある高緯度〜極付近に吹く極偏東風がこれにあたります。


ハドレー循環
極循環が地表では大気を南に運ぶのに対して

中緯度付近のフェレル循環は大気を北向きに運びます。

そうすると・・・もうお分かりですね!

北に運ばれる大気は進行方向右向きに力を受けますので、

北に動く大気は進行方向右向き、すなわち東の方に曲げられて

西から東に吹く風(西風)
になります。

日本のある中緯度付近の強い西風は偏西風(西風)と呼ばれています。





? コロンブスが利用した「風」 

ここまで読み進んでくれた皆さん、お疲れさまでした!!

安心して下さい。難しいお話はこれでおしまいです。

この章では地球をとりまく大規模な風が

人類におよぼした恩恵について見てみたいと思います。

「風の恩恵」と言ってまず思い浮かぶのは15〜17世紀の大航海時代です。

なかでもコロンブスは有名ですね。

下の図はそのコロンブスが大西洋横断に初めて成功した時の航路を表しています。

なぜ彼は人類で初めて大西洋を横断することに成功したのでしょうか?




1492年コロンブスは帆船で初めて大西洋を横断するのに成功しましたが 

それは彼が今日でいう貿易風を巧みに利用したからでした。

それ以前にもすでに何人かの航海者は大西洋東部を探検し、

アゾレス諸島にまでは達していたものの、アゾレス諸島は北緯37°にあって

そこからさらに西に進むことは偏西風によって妨げられていました。

しかし、コロンブスはもっと南下すれば東風(貿易風)が吹いていることを知っていたので

まずは南下してカナリー諸島に達し、そこから貿易風を利用して

見事大西洋を横断することに成功したのでした。

帰途は逆にまず北上してから偏西風帯に入ってアゾレス諸島に到着しています。


ちなみに世界で初めて太平洋をヨットで横断した堀江健一氏は、

サンフランシスコに向かう往路では偏西風を、帰路では貿易風を利用して航海しました。


? 行きと帰りで飛行時間が違う理由

皆さんは海外旅行などの際に、

行きと帰りで飛行時間がかなり違うことに気づかれたでしょうか?

「同じ飛行機で飛んでいるはずなのに…時差のせいかな?」

などと考えてみて釈然としない思いになったことはありませんか?

実はこれにも「風」が大きく影響しています。

具体的に例をあげますね。

下の図は「日本航空国際線時刻表」4・5・6月版です。

表の一番下の欄に「区間所要時間」が記されていますが

成田→ニューヨークは12時間20分

ニューヨーク→成田は13時間40分

となっていて、実に1時間20分もの違いがあります。



理由は次の通りです。

日本の上空には西から東へ、強い偏西風(ジェット気流とも言います)が吹いています。

この風の速さは、国際線の飛行機が飛行する高度10,000メートルの上空では、

最大時速が360キロにもなります。

この強い風がニューヨークに向かう際には追い風となり

成田に帰る際には向かい風となるために、これだけの時間の差が生じるのです。

ちなみに、上にわざわざ「4・5・6月版」としましたのは

偏西風は季節によって吹く場所が変化するため飛行時間が変わってしまうからです。

ちなみに「1・2・3月版」では

成田→ニューヨークは12時間15分

ニューヨーク→成田は14時間

となっています。

季節ごとの時刻表で飛行時間の違いを見比べてみると、

日頃は気づくことの少ない偏西風の存在を実感できるかもしれませんね。


? 様々な「風」の影響

これまで、コロンブスがどの様に風を利用したか、

そして飛行機が風にどのように影響されているかをみてきました。

もちろん「風」の影響はこれだけではありません。


例えば、昨年に引き続き今年も日本を厳しい猛暑が遅っていますが

これは「偏西風の蛇行が原因」と気象庁より発表されています。

具体的に書きますと、

本州北部沖と日本海中心部の海水の温度が上がったことにより

偏西風の通り道が北にずれ、

南からのしめったあたたかい空気が入りやすくなって猛暑になったというわけです。

また、

異常気象の代名詞のようなエルニーニョ現象やラニーニャ現象は貿易風の影響です。

まだまだ色々あってここには書ききれませんが

すべての気象は風の影響をうけている

と言っても過言でありません。


さらに、海水面付近の海水は海洋上を吹く風を原動力として水平に移動していて

これがいわゆる黒潮などの「海流」になります。


このようにわたしたちの住む地球は「風」によって

実に様々な影響を受けています。

しかも、その原動力が

ハドレー循環などの循環と地球の自転による錯覚の力(コリオリの力)に過ぎない

ということは少し意外な感じがしませんか?


? 恋は錯覚!?

さあいよいよこの章から後は、

「風」が起こるしくみが私たちの人生に教えてくれることを考えていきたいと思います。


地球をとりまく風の流れは大気の循環に錯覚の力が働いた結果だ

というお話をしてまいりました。

みなさんは錯覚という言葉を聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか?

もしかしたらあまりよくないイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんね。

でも「錯覚」は悪いことばかりではありません。

例えば「恋は錯覚だ」という人もいます。

特に若い時の恋は「恋に恋する」状態であることも少なくありません。

相手のことを想ってずっと見つめていたはずなのに

その実、独りよがりの恋になってしまった経験や

燃え上がるような情熱に駆られて始まった恋なのに

あっけなく終わってしまった経験は誰しもお持ちではないでしょうか?

そんな若い時の恋では

 ・相手を好きだと思う気持ち

 ・相手も自分を好きでいてくれるだろう想う気持ち

 ・二人の間には永遠の愛があるように思える気持ち

 ・この人が自分の運命の人だと信じる気持ち

   etc...

すべては錯覚だったのかもしれません。

でも、だからと言ってその恋はなかった方が良かったのでしょうか?

いえ、決してそんなことはないはずです。

あの頃の恋愛があったから今のあなたがいます。

あの頃の恋愛で自分といやというほど向き合ったからこそ

あなたは大きく成長できたのです。

錯覚は決して不毛な思い違いばかりではないのです。


若い時の恋は、錯覚(幻想)の産物かもしれませんが

それはとても美しく、人生を生きる意味にすらなる素敵なものです。

そしてそれはあなたを大きく成長させるために欠かすことのできない時間なのです。




? 人生の「追い風」を生むのは錯覚の力

もう一つ、「風」の起こる仕組みが人生に教えてくれることを考えてみたいと思います。

突然ですが、

あなたは日々の生活が同じことの繰り返しに思えて嫌になったことはありませんか?

家と学校の往復、家と会社の往復に終始しているように感じる毎日は

進歩なく時間がただまわっているだけのように思えてしまうかもしれません。

でも、その繰り返し(循環)は錯覚の力によって大きな力を生みだします。

錯覚、と言ってしまうと少し語弊があるかもしれませんが、

本当のところがどうかには関係なく、まずはあなた自身が

「自分は前に進んでいるんだ」

と思い込むことで、あなたの人生に「追い風」が吹き始めるのです。


「引き寄せの法則」というのを聞いたことがある方も多いと思いますが

私はこれも錯覚の力が生む「追い風」の一つだと考えています。

たとえ根拠はなくても

「願いはきっと叶う」

と強く信じることは人生に大きな力を生んでくれるのです。


あなたが一日一日を生きることは

既にとても大きなエネルギーを秘めています。

そこに思い込みという錯覚を加えるだけで

あなたの人生は大きく動き出すはずです。

待っているだけではあなたの人生に風は吹きません。

あなたの人生に吹く「追い風」は

あなたが自分の進んで行く道を「信じる力」によって

あなた自身がつくりだすものなのです。



 

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管理人 永野裕之




東京大学理学部
地球惑星物理学科卒

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