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  『地震』〜動き続ける大地と心〜

今年(平成23年)3月11日に起きた東日本大震災は

地震の規模を表すマグニチュードは9.0で亡くなった方は1万5千人以上、

行方不明者は平成23年6月16日現在で8000人以上に上ります。

また1995年(平成7年)1月17日に起きた阪神淡路大震災は

マグニチュードは6.9で 6000人以上の方の命が奪われました。

両方の大震災で私の親戚や親しい親戚も被災しました。

なぜこのような悲しい災害が起きてしまうのか…

実にやり切れない気持ちになります。


地学を通して日々の癒しと自己実現をお伝えする者として

この大震災の折に微力ながら私にできることは

やはり「なぜ地震は起きるのか?」をお伝えすることだと思います。

そして「動き続ける大地は私達に何を伝えようとしてくれているのか?」

を皆様と一緒に考えていきたいと思います。



地震の原因には大きく分けて二つあります。

それはプレートの跳ね上がりによるものと断層によるものです。

先に挙げた二つの大震災は

東日本大震災…プレートの跳ね上がりによるもの

阪神淡路大震災…プレートの断層によるもの

とそれぞれ違うタイプの地震でした。

ではそれぞれを詳しく見ていきましょう。


? プレートとは

なぜ地震は起きるのでしょうか?

その答えを知るためにはまず地球の内部構造について見ていきましょう。

私たちの地球はたとえるなら半熟のゆで卵のようになっています。

一番外側には卵の殻にあたるプレート

その下には白身にあたるマントル

そして中央には黄身にあたる があります。

地球表面を覆うプレートは硬い岩盤の板のようなもので、

マントルはドロドロに溶けた溶岩です。

地球の中心にある核は高温のために溶けた鉄分などで出来ています。

さきほどゆで卵を「半熟」と書いたのは

プレートの下のマントルは完全に固まった固体ではなくて

どろどろに溶けた溶岩だからです。

プレートはこのマントルの上に、水にうく氷のように浮かんでいます。

また地球上のプレートは全体で1枚の板になっているわけではなく

10数枚に分かれています。

先ほどの例で言うなら、ゆで卵の殻にひびが入ったような状態です。

このうち大陸を乗せているプレートを大陸プレート

海底のプレートを海洋プレートと言います。


イメージしていただけたでしょうか?

地球の表面が「ひび割れた」状態であること、

そして揺るぎないはずの私たちの足もとにある大地が

ドロドロの溶岩の上に浮かんでいるだけというのは少し意外な感じがしますね。



 


? プレートの運動

前章で私たちの足もとにある大地は

ドロドロの溶岩に浮かんでいるだけだというお話をしましたが、

実は大地は浮かんでいるだけではなくて動いています。

信じられますか?

20世紀のはじめに、ドイツのウェゲナーという学者が

アフリカと南アメリカの海岸線の形がよく似ていることや、

アフリカと南アメリカに同じ種類のミミズが生息していることなどから

「大陸は動いているのでないか?」

「現在の7つの大陸は昔は1つの大陸(超大陸)だったのではないか?」

と考えて「大陸移動説」を唱えましたが

当時の学者たちにとってもそれは信じられないことだったようで

「非科学的だ!」とまったく認められませんでした。

しかし、その後の研究によって、

大陸だけではなく、海底も含めて

地球の表面を覆うすべてのプレートは

1年間に数cmという非常にゆっくりな速度ではありますが

確かに動いているということが分かりました。

このプレートの運動のことをプレートテクトニクスといいます。

地球上の10数枚のプレートはプレートテクトニクスによって

それぞれが下の図のように勝手な方向に動いているので、

プレートどうしの境界では

2つのプレートが別々の方向に押し合ったりすれ違ったりする力が働いています。

この力が地震の原因を作っているのです(詳しくは後ほど書きます)。





? プレートの一生

それではプレートはいつ頃どのようにしてできたのでしょうか?

実は、驚くべきことに

今もなおプレートは新しく作られ続けています!

プレートは海底火山の集まりである中央海嶺と呼ばれる場所で生まれます。

海嶺では地球内部のマントルから高温の物質(マグマ)がわきあがり、

それが海水によって冷えて固まることで次々とプレートが作られています。

こうして生まれたプレートは水平に移動して、海嶺から離れていきます。



 


地球上の表面積は限られているのに

どんどんプレートが作られているということは

どこかでプレートが失くなっているということでしょうか?

そうなんです。

海嶺で生まれたプレートは、陸のプレートと衝突する場所で

陸プレートの下にもぐりこむような形で沈み込んでいます。

沈み込んだプレートは地球内部の高温によって溶けて

マントルの一部となって消失してしまいます。

このようにプレートがなくなる場所が海溝です。

プレートにも一生があるのですね。

地球は「生きている」と感じられるお話です。




ちなみに日本の太平洋側にある巨大な太平洋プレートは

東太平洋海嶺で生まれ、日本海溝に沈み込んでいます。

  


? プレート境界型地震(プレートの跳ね上がりによる地震)

地震のタイプは大きく分けて二つあります。

一つはプレート境界型地震で、もう一つは内陸直下型地震です。

ここではまずプレート境界型地震について見ていきたいと思います。

海溝で海洋プレートが陸プレートの下に沈み込む際に、

陸プレートを引きずり込みます。

これにより歪んだ陸プレートは弓のようにしなり、

やがて我慢できなくなって、跳ね上がります。

これがプレート境界型地震です。





プレート境界型地震はプレート自身の跳ね上がりなのでエネルギーが大変大きく、

地震の規模を表すマグニチュードも大きくなります。

また海溝で起きる地震のため津波も引き起こします。


先の東日本大震災はまさにこのプレート境界型地震でした。

太平洋のプレートが東日本を乗せた北米プレートの下に沈みこんで起きました。

マグニチュードは日本観測史上最大の9.0で 

宮城県北部で最大震度7を記録しました。

また津波も発生し、東北地方から関東地方の太平洋沿岸では甚大な被害が発生しました。



今回の東日本大震災の報道では頻繁に「想定外」という言葉が繰り返されました。

ここに文部科学省に設置された政府の特別機関である「地震調査研究推進本部」が

2011年(今年)1月に出しているプレート境界型地震の長期評価(予想)があります。

それによりますと宮城県沖や三陸沖では

30年以内にマグニチュード7.5〜8.0クラスの地震が発生すると

「想定」されています。

つまりマグニチュード9.0というのはまったくの「想定外」だったのです。


ここでマグネチュードについて少し詳しくお話しておきたいと思います。

マグニチュード(Mとします)と地震のエネルギー(Eとします)の間には

 
というやや複雑な関係式があります。

この際式そのものはどうでも良いのですが、

これに従って計算すると、

マグニチュードが1大きくなるだけで地震の規模は約32倍にもなります。

つまりマグニチュード8.0と9.0はえらい違いなのです。



私たちは今回の大震災で今の科学の限界を思い知らされることになりました…。

これまで考えられてきた地震長期評価(予想)をもう一度すべて再検討すると共に、

科学を過信してはいけないこと、

そして自然を「理論」だけに頼って「楽観」してはならない
という教訓を

深く胸に刻まなければならないと思います。


 

? 内陸直下型地震(断層による地震)


地震のもうひとつのタイプが内陸直下型地震です。

プレートどうしの押し合いへし合いによって

プレートに力が加わるとプレートの内部に亀裂が入ります。

この亀裂に対して力がさらに加わると、

下の図のようにプレートが上下にずれて地震が起きます。

このプレートのずれのことを「断層」といいます。

内陸直下型地震とはプレートに力が加わり

断層ができることによって生じる地震のことです。



プレート境界型地震はプレートのそのものの跳ね上がりによって起こる地震なので

地震の規模を示すマグニチュードが大きくなるのに対して

内陸直下型地震はプレートの亀裂にずれが生じることによって生じる地震で

プレート境界型地震ほどマグニチュードは大きくならないのが普通です。

しかし内陸のごく浅いところで起きる内陸直下型地震は震源が近いために、

マグニチュードが小さくても狭い範囲で大きな揺れになることがあり、

甚大な被害になってしまうことがあります。


下の写真は阪神淡路大震災の時に生じた「野島断層」です。

阪神淡路大震災はマグニチュードが6.9でした。

また東日本大震災のマグニチュードは9.0でその差は2.1です。

前章で紹介しました計算式に従って計算すると

東日本大震災は阪神淡路大震災に比べて

実に約1450倍のエネルギーだったことになります。

しかし最大震度はどちらも7でした。

それは震源地

東日本大震災の場合はプレート境界型遠かった

(宮城県・牡鹿半島沖約130キロ 深さ約24km)

のに対して

神淡路大震災の場合は内陸直下型近かった

(淡路島 明石海峡大橋の真下 深さ約16km)

からだと考えられます。


多くの尊い命を奪った2つの大震災…

私たちはただその強大なエネルギーの前に立ち尽くすしかないのでしょうか…

何かをここから学ぶことはできないのでしょうか・・・






? 「生きている星」〜地球〜
 

地震には大き分けて二つのタイプがあることを申し上げてきましたが、

いずれもプレートが動いていること(プレートテクトニクス)が原因になっています。

それならば、プレートが動くことさえなければ地震や津波の大災害も起きないのに…

と プレートが動いていることを恨めしく思う方もいらっしゃることでしょう。

そのお気持ちはよく分かります。

しかし、

このプレートの運動があるからこそ地球は「生きている星」

だと言う事もできます。

たとえば月や火星にもプレートはありますが、

月や火星のプレートは動いていません。

ちなみに火星は数十億年前には地球と同じようにプレートが動いていて

やはり地震があったと言われています。

しかし火星は地球に比べて小さいので随分昔に冷え固まってしまいました。

言い換えれば火星は既に「死んだ星」です。

一方、プレートが動きつづけている地球は「生きている星」なのです。


? 人類の誕生を導いたプレートの動き

プレートが動くことによって、大陸が移動し陸と海の配置が変わると

気象をはじめとしてそれを取り巻く環境も大きく変わります。

そうなるとそこに住む生物も環境に適応するように変わらざるを得ません。

これが進化です。

人類の祖先が出現したのも、

それまで森林だった場所がプレートの動きによって乾燥化し

草原になってしまったことが原因だったと考えられています。

安全な森から食べ物も少ない危険な草原になった過酷な環境の変化の中で

それまでジャングルで生活していた類人猿が人類の原型へと進化していきました。

つまり、人類が誕生できたのはプレートが動いたからなのです。

おそろしい地震の原因になってしまうプレートの運動ですが

プレートの運動がなければ我々人類は誕生しなかったかもしれません。


? 動き続ける心

ではいよいよ、動き続ける大地が私たちの心のありようについて

何を教えてくれているのかを考えてみたいと思います。


我々の足下にある大地は常に動いています。


これは紛れもない事実ですがそれを日常生活の中で実感できることはまずありません。

人の心も同じだと言えると思います。

人の心も本人の自覚とは関係なく常に移ろい、変化をしています。

他人とコミュニケーションを取ることで

良くも悪くも互いに動きあう心と心が衝突します。

それは地球上のプレートが互いに動くことによって

それぞれがひしめき合っていることとよく似ています。

自分の心が動き、他人の心も動くことで

時には軋轢を生じることもあるでしょう。

例えば、上司と部下、先生と生徒、親と子供、夫婦・・・など

様々な他人との人間関係の中で

最初は上手にコミュニケーションを取れていた間柄でも

動き続ける心の変化によって

次第にうまくいかなくなって、

他人の心と自分の心との間に軋轢が生じ、自分の心が歪められてしまいます。

そしてそれを我慢していると

相手との関係性がどんどん悪化してしまうことがあります。

海洋プレートに長年歪められた陸プレートが我慢の限界に達して

突然大きく跳ね上がってしまうプレート境界型地震のように

やがて心も我慢の限界に達すると大きく跳ね上がってしまいます。

古来からの日本の表現で言えば「堪忍袋の緒」が切れてしまうのです。

そうなると大きな怒りが生まれて不毛な争いを生み、

また時には心そのものが折れて、絶望の淵に立たさされてしまうことでしょう。


ではどうしたら良いでしょう?


実は最近の研究でプレートの進行方向は一定ではなく

数億年に1度の割合で変化していることが分かってきました。

この事実に他人の心との間の軋轢を解消するヒントがあるように思います。

すなわち今生じている軋轢を解消するために

心の動く方向を変えてみるのです。

言い換えれば物事の捉え方・見方を変えてみるのです。

たとえば自分の大嫌いな上司は

自分の欠点を教えてくれる大切な存在だと

考えることはできないでしょうか?

また、お互いに顔を見るのも嫌になってしまった夫婦でも

これまで2人で力をあわせて乗り越え、

支えあってきた色々な出来事を思い出すことで

感謝が生まれてくることはないでしょうか?

あるいは校則ばかりを押し付けてくる学校の先生を疎ましく思うとき

集団生活を導かなければいけない先生の立場に立ってみると

個々の自由を尊重してばかりはいられないことが理解できるようにはならないでしょうか?

このように視点を変えてみる、相手の立場に立ってみることで

人間関係で生じた軋轢、心の歪みの多くは緩和できると思います。


? 心の亀裂

 

上の図は約6億年前から今日にいたるまでの間に

地球にできた「地層」を模式的に表した図です(地球の誕生は46億年前)。

この6億年の間の歴史がそれぞれの層の中にしっかりと蓄積されています。

人間も同じだと私は思います。

幼年期、少年(少女)時代、青春時代、社会人…

それぞれの時代で色々な人と出会い、様々なことを経験してきたはずです。

それらはすべて私たちの心の中に積もって

私たちの心の地層 を形造っています。

特に真面目で一生懸命な人であればあるほど、

しっかりと心の地層を重ねているものです。

しかし、その心の地層に何らかの圧迫によって

亀裂 が入ってしまうことがあります。

その「圧迫」は、他人の評価であったり、

こうありたいと思う自分自身であったりするかもしれません。

「あの先生に認められたい」

「あの上司に認められたい」

「あの人に負けたくない」

「もっと上手にやれるはずだ」

…などなど、

他人からみればもう充分すぎるほど立派にやり遂げているのに

真面目で自分に厳しい人の中には

「もっと、もっと…」

と自分で自分を鼓舞していく人が少なくないと思います。

もちろん、そうやって向上心を持つことは素晴らしいことです。

実際に、そういう人はこれまで一定以上の成果と評価を

勝ちとってきたことでしょう。

でも、そういう人にこそ心配されるのが「心の断層」 です。

綺麗に積もった地層であればあるほど、心の断層のズレ は顕著になります。

すなわち、これまで真面目に丁寧に心の地層を重ねてきた人ほど

自分の心がズレてしまったそのことに大きくバランスを崩してしまう事が多いように思います。

心の断層は大地の断層と同じく、最初はわずかな亀裂によって始まります。

その亀裂は他人には決して見えないものですし、

もしかしたら本人にとっても些細なことに思われるかもしれません。

でも、それを放っておいたらだめなんです。

わずかな亀裂にさらなる力が加わるとやがて大きな断層へと変わってしまいます。

心に亀裂ができていませんか?

それを見て見ぬふりをしていませんか?


心に亀裂を見つけたら

ちょっと肩の力を抜いてみてあげて下さい。


もうあなたは充分がんばっています。

心の亀裂は心が自分自身に発しているSOSです。

その心の声を聞いてあげることができる人はあなたを置いて他にいません。



? 心が動くから人は人である

心が動かなければ、心が病むことも壊れることもないかしれません。

だったらいっそ心は動かなればければいいのにと思う方もいるかもしれません。

でもそれは生命も水も持たない火星のように心が「死んでいる」のと同じです。

心が動くからこそ、人は何かに感動し、涙を流すこともできるのです。

日々に喜び、笑い、感謝し、泣き、怒り、傷つきながらも生きていくことは

人間が人間らしく生きている証です。


残念ながら地球が生きている限り、地震を避けることはできません。

しかし、プレートは一度跳ね上がれば、元に戻ります。

断層もその上に新しい地層が積もれば、また静かで平穏な大地になります。



地球は人類が生まれる何億年も前から

幾度となく繰り返される動くプレートによる大地震と過酷な環境の変化に耐え、

そのすべてを受け容れてきました。

その結果として今の美しい地球があります。


人も、心が動いている限り、

心が跳ね上がったり、心に断層ができてしまうことを

完全に避けることはできません。

それはとても苦しいことでしょう。

とても悲しいことでしょう。

でもそのすべてを受け入れて今を生きる人の姿はとても輝いています。



プレートが動くからこそ、地球が地球足り得ているように

心が動くからこそ、人は人であることができるのです。





その他のテーマ

『プレートテクトニクス』〜動き続ける大地

『火山』〜地球の核からのメッセージ














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大地について書いていきます

管理人 永野裕之




東京大学理学部
地球惑星物理学科卒

近著(地学関連)




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〈文理出版〉

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